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最期の先生01

 1

 

 俺の通う大里中学には変わった教師がいる。
 俺は別にその教師の姿を見た事はない。だから、どんな教師なのかは知らないのだから分からない。ただ噂で聞く話だと、見た目は普通で特別目立つ場所のある顔ではなく特徴のない、平凡な顔立ちらしい。
 教師として口うるさく宿題の提出を求めるわけでもなく、熱血教師でもない。性格は物静かでどちらかと言えば親しみやすい教師だと噂で知っていた。生徒から嫌われる事もなく、慕われているという事でもなく。俺達くらいの年頃になると他人からうるさく何かを言われたりするのがすごく、鬱陶しく感じてしまう。だから生徒達にとっては良い意味でも悪い意味でも”ありがたい”教師なんだろう。 
 その教師は技術家庭の担当であるが、俺達のクラスには違う技術家庭の教師が指導に来ているため俺はその教師の授業を受けた事がない。どんなもんなんだろうかと、興味はあったから隣のクラスの奴(五組は担当が違う)に聞いてみた話では、授業が終わるとすぐに職員室へと戻ってしまうらしい。授業の内容も他の教師達とは何も変わらない平凡で穏やかな内容。
 どこが変わった教師なのだろう。
 俺は疑問だった。その教師は家庭科部の顧問をしているらしい。家庭科部の生徒達から聞いた話だと、教師――橘という男性教師はほとんど、部員に対して指導を行わないらしい。
 部員達が火を扱う時は普通の教師、普通というのも変なのかもしれないが、世間一般の俺達が知っている教師なら、注意を軽く促すはずだ。それに次の部活で何を作りたいのか、という事をまったくと言っていいほど橘は生徒達には尋ねず、興味を示さない。部活時間に部員達がお喋りに夢中だとしても橘は咎めない。視線すらも動かさないらしい。
 なるほど。確かにそう聞けば変わった教師――変人と言えるのかもしれない。だが俺はその教師の事を噂で聞いただけだ。まだ何ともいえない。
 それに、俺は橘にそれほど興味があったわけではない。
 噂を聞いてもすぐに忘れてしまう。ほんの少しの好奇心なんて飽きたら綺麗に忘れてしまうものだ。
だから俺が橘を覚えていなくても、なんら不思議ではない。

  2 

 何故橘が俺のクラスの教壇に立っているんだ
 まるで最初からそこにいたかのように、何故いるんだ。
 ……別に大した理由はないはずだ。ただつい一週間前まで俺達を担当していた女性教師が”不慮の事故のため”死んだだけで。クラスを持たない橘が臨時の副担任となっただけだ。
 校長達は口を揃えて不慮の事故、と曖昧な説明を全校集会で生徒達に説明していたが、生徒達……少なくとも俺のクラスの連中は女教師の死因を知っていた。
 自殺、だ。
 それを隠す教師達に嫌悪感は覚えずとも、胸に引っ掛かる不信感を感じる。
 だがある意味では賢明な判断だったのだろう。生徒たちの混乱を招くと予め予測できているのだし、それに何より俺達は受験生だ。余計な刺激を与えたくないという教師たちの意図も理解できる。
 ――と、そんな”重大事件”が起きたがために橘が俺達の前で教鞭を取っているわけなのだが。どうも俺には橘からやる気というものが微塵も感じられない。
 黒板に必要なものを全て記し、生徒達にプリントを配ったらすでに用済みと言わんばかりに教師用の小さなアルミ製でできた机と鉄パイプに座り、何かを静かに書いていた。
 俺の席から見えるのは橘が万年筆を白い紙にはしらせているという事だけで、何を書いているかは分からなかった。
 ただなんとなく授業とは関係のない事なのだな、という事だけは橘の表情から窺える。
 橘は俺たちに視線を向ける事は一度もなく、熱心に手元を見ているだけ。これが橘の授業。
 二時限目の終わりを告げるチャイムが鳴ると橘は授業中に書いていた白い用紙を集めクリアファイルへと閉じると席を立って教室の外へと出て行った。 
 クラスが一気に開放感に満ち溢れる中。俺は教科書を机の中へとしまい、席を立っていた。
 足は自然と教室から出ていて、橘の後ろ姿を追っていた。
「すみません」
 橘は足を止め、緩やかな動作で振り返った。
「なんだ?」橘のブラウンの瞳が俺を捉える。
「何……書いていたんですか? 授業中に」
 別に関心を持つような事ではなかった。
 だが、俺は何故か自然に橘を呼び止め、そして何を書いていたのかと、問い詰めている。
「……どうしてだ」
 橘の唇がふわっと緩められた。
 まさか、理由を聞かれるとは思っていなかった俺は、思わず何を言ったらいいのかと口ごもってしまう。
 それでも橘は俺の解答を期待しているのか、俺へと続きを促そうと視線を寄こしている。
「単なる好奇心ですよ。好奇心」
 かなり苦し紛れの答えだったが、間違いではない。
 興味と好奇心は似たようなものだろう。
 かなり投げやりな答えだったのに橘は気を悪くした様子はなく、むしろ愉快そうに顔を歪め、俺をじっと見すえていた。
「好奇心、か。正直で結構」
「――で? 答えてくれるんですか?」橘の遠回しで、答える気があるのかないのかという態度に俺は苛立った声音になっていた。
 それでも愉快と言わんばかりに橘は表情を崩さない。
「小説だ」
 強弱のない静かな声で橘はそう囁くように言った。
「小説?」
 予想外の答えに橘の言葉をオウム返しにしてしまう。
「小説だ。純愛小説」
 意外……というよりは似合わない。
 別に橘の容姿が純愛小説を書く上で違和感があると思ったわけではない(別に小説を書く上で容姿も何も関係ないが)。
 橘を近くで見れば見るほど、まあまま整った顔立ちをしている。唇は不健康に少し紫を帯びてはいるが、顎の形も眉の形もそれなりに……別に醜いわけではない。むしろ綺麗な顔立ちだとも言えなくもない。
 ただどうしてか橘の口から小説だの愛だのという単語が出てくるのに違和感を俺は感じてしまうのだ。
 容姿的な問題ではなく雰囲気の問題なのかもしれない。
「どうして?」
 俺はもっぱら読む専門で書いた事はない。だからどうして橘が純愛小説を書くという興味が胸に芽生えていた。
 すると橘の口が開かれる。白い歯が見えた。
「物語を紡ぎ出すのに、理由なんて必要か?」
 語り掛けるかのような言葉。

 

これがきっかけなのか。それともきっかけなんてそもそもなかったのか。
 それでもこれが俺と橘が最初に交わした会話で、奇妙な関係の幕開けになった事だけは確かな事だ。

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私は悪女


私は泣かない
憎しみ続けたあなたになんて
絶対に泣くものか

泣いてたまるものか!
私はあなたを恨み続ける悪女であり続ける
あなたに受けた恩を忘れ
あなたに暴力をふるい続けた私に

あなたを想う資格なんてない
あなたが苦しむならば
私はそれを嘲笑おう
あなたが絶望するならば
私はさらに深い絶望を用意しよう

私は悪女
悪女のままで、あなたの最期を見届けましょう

でも、なぜか浮かぶ不思議な感情
あなたへ対する愛情なんてないのに
浮かぶこの感情

命消えゆくあなただから?
それとも
――家族だから?

あなたの最期に涙を流す資格などない
そうココロに決めたはずなのに
この湧き上がる涙は、何?
この蠢く想いは、何?

私は悪女であり続けたい
なのに、どうして
この想いは
消えないの?

私は悪女
あなたの死を嘆く資格など、ない




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誰かから誰かへ2


あなたが私の元へ現れた時、私は全てを悟った。

全身を駆け抜ける哀憐の感情。

懐かしい記憶と、優しい後悔。

私はあどけない、何も分かっていない無知な君の頬にキスをした。

きつくあなたの手を結んで、二度と離さないと天へ誓った。

それが例え許されないとしても、私はあなたが愛おしくてしょうがなかった。

なぜならあなたはあの子に似ているから。

容姿や性格が似ているわけじゃない。

ただ、私には一目見た時からあなたがあの子に見えた。

――私の弱さで失ってしまった、哀れで優しいあの子。

清廉で純潔なあなたは私の目にはあの子と同じに見える。

だから、手放せなくって。

愛しくって。

こんな私のエゴであなたをここまで引き込んでしまった。

私の過去の後悔を、未来へ突き進むあなたを躓かせてしまった。

これは私の許されない罪。

ごめんなさい。

でも、これだけは伝えたいのです。

あなたがいてくれて、よかった。

 

いつか滅びる日が来ようとも、私は君の事を忘れられません。

君を想う事はどんな感情よりも勝り、どんな冷たい感情も打ち砕く。

悲しみ、絶望、悲愴、憎悪、悪意、憎しみ。

そのどんな感情も、君への想いには叶いません。

君との思い出は、闇をも消し去る。

どんな剣よりも、私の心強い味方となってくれるのです。

だから……。

過去形を使ってこう記すのは、胸の痛む思いなのですが、どうか聞いてください。

天国で過ごす君へ。

楽しかったです。嬉しかったです。誇らしかったです。愛しかったです。

あの日々を、今でも忘れられません。

 



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誰かから誰かへ

~君へ送る私の言葉~

 

 穏やかな春の日ざしはあなたがいなくなったことで、突如終わりを告げ、春の温かみに慣れていた私の肌を、凍えるような寒さが貫きます。どうしてこんなことになってしまったのでしょうか。今でも分からず、私はただ雪の中で蹲っています。

 あなたは一体今、どこにいるのでしょうか? こうやって日記の一端に書いても、あなたが戻ってきてくれるわけではありません。あなたは、死んでしまった。私の胸の中で息絶えたその時を、私は今でも覚えています。

 悲しくて、悔しくて。あなたを守れなかった自分自身が憎いです。どうしたら私は自分を許すことができるのでしょうか? 私が、私自身に呪いの言葉をかけずに済む日がいつか来るのでしょうか。

 きっと、来ないと思います。

 私は今でもあなたを失ってしまったことで、私自身を恨んで憎んでいますし、それを発散させることなどあなたに申し訳なくてできません。これを人は罪と呼ぶのでしょう。私の罪は常に私の前にあります。目の前にある罪を赦すことができる人は、私ではありません。あなたです。でもあなたはもうすでにこの世にはいない。

 これはどれだけ辛いことなのでしょうか。赦しを乞う人もいないなんて! これからも、私はこの罪と向き合って生きていくことになるでしょう。あなたを忘れないために。

 


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煉獄篇


【イントロサビ】
花となれ
月となれ
光となれ
愛しいベアトリーチェ

【Aメロ】
人生の道半ば
私は森をさ迷う
国を追われ
咎を逃れるために

【Bメロ】
嗚呼、汚らわしき我が身
嗚呼、純潔なるベアトリーチェ
嗚呼、愛しいベアトリーチェ
お前ともう一度会いたかった

【サビ】
花のように
月のように
光のように
美しいベアトリーチェ
花となれ
月となれ
光となれ
亡きベアトリーチェ

【Cメロ】
煉獄の頂上で
お前と再会する
美しいお前
清廉な眼差し
嗚呼、神を!

【Bメロ2】
嗚呼、汚らわしき我が身
嗚呼、神の国のベアトリーチェ
嗚呼、私のベアトリーチェ
お前とまた会う時が来るとは

【サビ】
花となれ
月となれ
光となれ
私のベアトリーチェ
花のように
月のように
光のように
美しいベアトリーチェ
私だけの
私だけの
私だけの
ベアトリーチェ

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台詞50~100


51「だーかーら。これはゴミなの。生ゴミ」
52「道化師は泣いたりしませんよ」
53「こんなにも胸が痛いのだから!」
54「今でも待っているんです。大人になっても待っているんです」
55「ひょっとしたら会えるんじゃないかと」
56「イライラしていて、つい」
57「もう一回だけチャンスをあげる」
58「ここにゃ楽園はないよ」
59「馬鹿は所詮馬鹿さ」
60「いわゆる好き、ってやつですか?」
61「僕はただ沈んでゆく」
62「僕は知ってるよ。君たちが僕を壊した事を」
63「そうやっていつも嘲笑っている」
64「……誰かを傷つけないように。誰かに嫌われないように」
65「俺は自分が傷つきたくないがために人に優しくする」
66「そうだ、京都へ行こう」
67「悲しみを声に出して」
68「あなたを殺します」
69「ゲームばっかりやってんじゃないわよ!」
70「優しい人。嫌いじゃない」
71「あなたは私と同じ」
72「この恨みをどこに晴らせばいいんだ」
73「お前だけは許さない」
74「自分だけは大丈夫なんて思っちゃいないよね?」
75「あの人は一体何がしたいんだ……」
76「鈍感に生きていた方が楽で幸せだ」
77「傷ついて。後悔して。またその繰り返し」
78「殺されてもいいから……謝りたいのに」
79「誰か一緒に死んでくれませんか?」
80「あほ。お前は笑ってればいいんだよ」
81「壊れたマリオネットみたい」
82「辛かった! 悲しかった!」
83「自分で自分を殺したくなる」
84「どうかアタシに死ぬ勇気を」
85「ああ、消えそうだ」
86「生きててナンボ」
87「うるさいな、黙れ」
88「息をして生きるんだ」
89「まぁ、全部私に任せて」
90「死ぬ前に一言言わせてくれ」
91「世界は一つじゃないんだよ」
92「もう、馬鹿!」
93「生きる資格なし」
94「あなたは今、どこにいるの?」
95「さよなら、過去の人」
96「生きなきゃ」
97「さびしいなぁ……」
98「ハローハロー」
99「全員整列!」
100「んーともぅ。仕方ないなぁ」

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台詞01~50


01「私、優しい人が好きなんです」
02「君の名前を教えて」
03「俺が世界のルールだ」
04「悲しいね。悲劇のヒロインさん」
05「優しくしないで」
06「もっともっと強くなりたいの!」
10「童貞歴35年です」
11「最期に一言どうぞ」
12「あーあーマイクのテスト中~」
13「大丈夫。なんとかなるから」
14「私の後ろに立たないで!」
15「殺す」
16「君はあんまり育ちがよろしくないようだ」
17「Yes, Your Majesty.」
18「死にたくないよ。君がいるから」
19「すべて壊してしまえ!」
20「何年ぶりかしら」
21「最初に言ったよな?」
22「お前みたいな不幸な奴、世の中には百万といる」
23「うぜぇ」
24「そうして君は去ってゆく」
25「誰か僕を殺してよ」
26「神様はいないけど僕は幸せ」
27「最高に愉快だ」
28「さぁ、パーティを始めようか?」
29「二名様ご相席です」
30「君が来るまでは」
31「さぁさ、目を瞑って」
32「自分を信じられない奴は人も信じれない」
33「えー残念ながら不合格です」
34「はぁ、私の事見てよ!」
35「こんなに綺麗なんだ」
36「手首を深く切るとね、一瞬血が止まるんだ」
37「誰でもいいから私を愛してください」
38「私はあなたの操り人形(マリオネット)」
39「大和魂を忘れたか!!」
40「さぁ、行こう」
41「大丈夫だよ。私たちがいるから」
42「世界はこんなにも美しい」
43「私に関わらないでください」
44「あなたを尊敬しています」
45「ほら笑ってよ」
46「泣いてもいいんだぜ。俺も泣いてるから」
47「世の中は絵空事。ぜんぶ、嘘っぱち」
48「孤独! なんて悲しい響きなんだろうか!」
49「おやすみなさい、おやすみなさい」
50「幸せになりたいの」


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クールな台詞で10題


01 「いいか? ここじゃアタシがルールだ。だからよく聞けよ。自分の身を守りたきゃな」

02「神に祈って何か変わったのかい? お坊ちゃんよ」

03「絶望は輪廻するからな」

04「あんた最高だ。最高の糞野郎だ」

05「本当にろくでもない」

06「ジョークも理解できないのかい?」

07「最高にクールだ」

08「1、2、3、……4はねーぞ」

09「さぁ、アタシと踊ろうか。お前が死ぬまでな」

10「俺が狂って見えるのは、お前が狂っているからだぜ」


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NARUTOお題~春野サクラ~


サクラちゃんで10題
(一部)
01 コスモスの花とあなたと
02 自分の無力をただ嘆く
03 泣いてばかりの私
04 女の一念岩をも通す
05 彼のためならどんな罪でも
06 ようやく気づけた君の強い思い
07 誰にも頼らない強さを
08 弱さの証を切り落として
09 悲哀の雨。君達を待つ
10 こんどは私も(強くなるから)

(二部)
01 受け継いだ怪力忍術
02 桜花咲き乱れて
03 ただひたすらにあなたを想う
04 木ノ葉に桜咲くまで
05 やっと君に会えた
06 頑張った君へ私なりの愛情を
07 命より大事な大切な仲間
08 冷たい雨は穏やかな光に
09 伝えられない、君への思い
10 あなたを殺す覚悟を、決める

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救いは……(1)


太陽はすでに姿を隠しはじめ、橙色の濃い光が校舎を照らしていた。
この時間帯に生徒の姿はない。すでに下校時間が過ぎ、生徒達は強制的に下校させられていた。
 窓の外から見える夕日は、とても美しく輝いている。橙色の光は校舎から見える街を照らし、校舎も照らし、自分自身も照らし出す。目を閉じてしまいたい程に眩い光だ。
 だが、この眩しい光もすぐに姿を消し街は闇夜に包まれてしまう。
 その前に用が終わればいい、と私は思う。夜道を一人で歩くのは心細いし、何より心配性な母に心配を掛けさせてしまう。なんとしてでも、それだけは避けないと。
 私はそんな事を考えつつ、職員室のドアを数回叩いて中へと踏み込んだ。
「失礼します……って、あれ? 誰もいない……」
 私が入った職員室はいつもの職員室とは違う、静かで誰もいない職員室だった。先生の姿が見当たらず、広い職員室のどこを見渡しても空席だ。
 いくら下校時間が過ぎているとはいえ、それは生徒の話だけで教師は違う。普段ならまだこの時間帯には教師がいるはずだ。
「おかしいな……」
 どうしたのだろうか、と私は疑問に思いながら教室に先生がいないなら私がここにいる意味はないのだから、職員室を出ようと踵を返した時、背後から突然声をかけられた。
「どうかしたのかしら?」
 誰もいない、人の気配すらもない職員室から急に声がしたから私の胸は激しく鼓動を打った。
「わっ!?」
 驚きのあまり、私は思わず間抜けとしか形容できない声を上げてしまった。
後ろを振り向くと、一人の女子生徒が立っていた。見ない顔の女子生徒だ。先輩だろうか?
「人の顔を見て叫ぶなんて。品のない人だこと」
静かで落ち着いている声には微かな苛立ちを感じてしまい、私は思わず「ごめんなさい!」と謝ってしまった。
別に私が謝る必要なんてないんだけど、彼女を取り巻く何か強烈なオーラが私を怯えさせていた。
私に声をかけた女子生徒……彼女はとても不機嫌そうに目を細め、私の目を睨み付けるように見つめていた。
そして何より私が驚いたのは、不機嫌そうに眉を顰める女子生徒はとてつもない美人だった事だ。
黒髪のロングヘアーは背の高い、しかも色白な彼女によく似合っているし、切れ長の瞳は和風美人を連想させる。
彼女の髪は私のボサボサ頭とはまったく違って、黒真珠のように綺麗で真っ直ぐ整っていた。それに私と同じ制服を着ているはずなのに、彼女はまるでモデルのように着こなし、他の女子生徒たちとは一線を越す存在に見えた。
……こんな綺麗な人、見た事ない。
それが私の第一印象だった。
「いきなり後ろから声を掛けられたから……びっ、びっくりしちゃいまして!」
彼女があまりに鋭い目つきで睨み続けているから、私は必死に弁解しようとオドオドと情けない声で言った。
そんな私の様子に少しは理解をしてくれたのか、彼女はふんっと小さく鼻を鳴らして、そして微笑を浮かべた。
「まぁいいわ。次からお気をつけなさいな。……それで貴女、どうしたの? もう下校時間はとっくに過ぎてるわよ?」
 それを言うなら彼女もそうだけど、そんな事言ったら絶対に彼女の気を害する事になるだろうから口を噤んだ。
「えっと、担任の先生に呼び出されまして……」
「あら? 先生方ならこの時間帯は職員会議に出てるの。――明日にでもしたらどうかしら?」
「でも……」
 私の頭に浮かぶのは先生の姿だ。時間にうるさい先生は私がもし約束を破ったら、鋭い剣幕で私を叱るだろう。
  それだけは避けたい。
私の思っている事に彼女は気づいてくれたのか、彼女は小さく溜息を吐いた。
「はぁ……じゃあここで待ってる? 後三十分はかかると思うけど」
 三十分も経ってしまえば、薄暗い夜道を下校しなくちゃいけないかもしれない。それでも先生に怒鳴られるよりはマシだと思って、私はしばらくの間職員室で待っている事にした。
「はい、そうします」
「じゃあ、ここに座って。ここは私の部屋じゃないから何も出せないけれど、勘弁してね」
「いえ……」
 私は彼女に進められるままに応接用のソファーに浅く腰かけた。彼女は私の真正面に当然のようにゆったりとした動作で腰かけたけど、勝手に職員室のソファーに座ってていいのかな?
でもあんまりにも彼女が自然な動作で座っているから、なんだか座っていてもいい気がしてくるから不思議だ。
しばらく私も、彼女もお互い口を開こうとせず嫌な沈黙が空気を支配した。
どこに目をやればいいのか困って、彼女の顔をじっと見つめて、視線が合いそうになったら慌てて視線を逸らす事を何度も繰り返していた。
「(それにしても、綺麗な人……)」
彼女を何度も見つめる度にそう思う。
細い体。長い足。白く透明な肌に、人形のように整った顔立ち。……どこを取っても、綺麗で美しい。
「さっきからジロジロ見て、何かしら? 私の顔に何か付いてる?」
私の覚束ない視線に彼女は気づいたのか、また不機嫌そうな色を帯びた声で尋ねられて、私は慌てて頭を下げた。
「い、いえいえいえ! すみません!」
 私はただ必死に、彼女の機嫌を損ねないように謝っただけなのに、どういうわけか彼女はクスクスと声を立てて笑い始めた。どうやら私があまりにも必死に謝るものだから、そこか彼女のツボだったらしい。
でもいつも不機嫌そうに眉を顰めている彼女が突然笑い始めたから私はかなり驚いて、そして少しだけ緊張感が緩んだ。
「くすくす……退屈しない人だこと。失礼だけど、お名前聞いてもいい?」
「あ、え、えっと……」
 彼女の細められた瞳には私に対する好奇心が見えた。突然名前を求められて、私は自分でも情けないくらい慌ててしまった。
すごく恥ずかしい。
「わ、私……、二年三組の山本由美って言います……」
 絞り出すように声を出したものだから、囁くような声で言ってしまった。こんな小さな声で彼女に伝わったのだろうか……?
不安げな目で彼女を見ると、彼女は何かを思い出したように手をパンっと打った。
「あら、美化委員の山本さん?」
「え」
 面識のないはずの彼女に私の所属している委員会の名前を当てられて私には出てくる言葉がない。
私の名前を知っている人なんて、校内でも数えるくらいしかいないのに。どうして彼女が私なんかの名前を知っているんだろう?
「ご、ご存じなんですか?」
探るように私は彼女を見つめた。
だけど、彼女は私の真剣な眼差しをまるで受け流すように、彼女はどこか嬉々とした表情を浮かべた。
「貴女、いつも学校の花壇を綺麗にお手入れなさっているでしょ? それに私、とても感動してよく覚えているのよ。こんなに綺麗にお手入れなさっているのは誰かしら、って思って、貴女の名前も調べたの。……ごめんなさいね、でもこんな綺麗な花を咲かせられる子がこの学校にいるとは思わなかったから」
 彼女は嬉しそうに私の顔を見ているけど、私は別段特別に花が好きってわけじゃない。
美化委員に入ったのも仕事があまりなくて楽ができそうだから、というのが美化委員会に入ったきっかけだった。
最初はそんな理由から入ったのだけど、だんだんと活動をしていく内に自然と花が好きになった。
 今までは花を見ても「綺麗だな」ぐらいしか思わなかったんだけど、今じゃ花を育てる事に安らぎを感じる。
……だから、ここまで私の植えた花に喜んでくれる人がいてくれた事に私は純粋に嬉しく思った。
私の今までしてきた事が、人に喜ばれるなんて。
 今までにない事だったから。
 私は喜びを隠せずに、照れ笑いしながらお礼を言った。。
「あ、ありがとうございます!」
「お礼を言うのはこちらの方だわ」と彼女は微笑んだ。笑う口元を手で覆い隠して笑う彼女の動作を私は見とれるように見つめる。
一々動作が上品で、優雅だった。
……こんな人、私の周りにはいない。
 きっと育ちの良い人なんだろうなぁ、なんて私はぼんやりと思う。
「――そういえば、今はスイセンの花が綺麗な時期ね。あれも貴女が植えたのかしら?」
静かで透き通った声で彼女は言う。
「……え、ええ。その……綺麗だなぁ、って思って」
美化委員でこの時期何を植えようか、と話し合いをした時に私がスイセンにしよう、と言ったのだ。
他の美化委員のみんなは「別に何でも良い」って感じだったから、私の意見はすんなり通されて、学校の花壇にはスイセンがたくさん植えられた。
「あら、そうなの」と彼女は嬉しそうに言った。
 だが彼女は、さっきまでの嬉々とした表情とは打って変わって瞳をすぅっと鋭く細めて、妖艶に微笑んだ。そこには悪意のようなものが感じられた。
「そう……いいセンスね……私も好きよ。スイセン」囁くように言うと彼女は唇を吊り上げた。
 綺麗な顔立ちの彼女が笑うと、とても美しい。だけど、なぜか私にはその微笑みは人間らしいも感じられなかった。
それは人形のような端正な美しさを持つ彼女だから、そう感じるのかもしれない。けれど、彼女の笑みにはどこか毒々しいものを感じる。
 所々に悪意を感じる、と言うべきなのか。
 まるで私に悪意があるように感じて……。

 だから、彼女がぽつりと漏らした言葉に私は恐怖に似た感情を抱いたのだ。

「……だってスイセンは、毒々しい花だもの。だから、美しい」
 恍惚、という言葉がぴったりなように呟く彼女の顔は毒々しい笑みを浮かべていた。
 まるでさっきの彼女とは別人のようだ。
 私は思わず疑問をもらした。
「え……?」
 彼女はくすくすと笑いながら私をじっと黒い瞳で見つめた。
「あらご存じないの? スイセンの花ってね、球根に毒があるのよ。……そこまで強い毒じゃないけれども……毒があって美しいってなんだか素敵じゃない? 美しいものには毒がある、ってね。ふふふ……」
 彼女の笑い方は、人を恐怖に陥れる力があった。
「(怖い……)」
 ただ花の話をしているだけなのに、どうしてこんなに怖いの? 私は泣きそうになるのをぐっと堪えて、恐る恐る彼女を見た。
「あ、あの……えっと」
 何でもいいから何か言わなくちゃ。 
 そう思った私は彼女の名前を呼ぼうと口を開いた。が、私は彼女の名前を知らない事に気づいた。
彼女は、私が必死に名前を呼ぼうとして口をパクパクさせているのに察してくれたのか、
「あら? ……ああ、そういえば名乗ってなかったわね。ごめんなさい……私、市川あやめと言うの」と自分から名乗ってくれた。
が、彼女の名前を聞いたとたん、驚愕の思いが胸を貫いた。
「……! それって……生徒会長……」
呆然と呟く。
 市川あやめ。
 このマンモス高校の生徒会長で、その美貌とカリスマ性から、この学校の生徒で彼女の名前を知らない人はいないと思う。
生徒会とかその他行事の時、私は必ずサボるから二年生になった今でも市川先輩の姿を見た事がなかったから、最初は何かの冗談かと思っていたけど、いざ市川先輩と対面してみて、それも頷けるような気がする。
中には市川先輩を神の如く崇める人もいる、なんて話もあながち嘘じゃないんだろう。
モデルにも中々いないような美貌とスタイル。その独特な語り方、強烈なオーラ。
 ……納得するしかない。
「私としては、今まで知らなかった貴女の方が驚きだわ」と市川先輩はどこか愉快げに驚いてみせた。
 ……それは、私があまり学校に興味がないから。
家の事とバイトが忙しくて、授業も時々サボってしまうし、学校にいてもほとんど寝ているか花壇をいじくっているかのどちらかだ。
 だから生徒会長の顔を知らないのは当然で、校長の顔もあやふやだ。
「すみません……」
 市川先輩の自信満々な態度に押されてしまって、私は謝ってしまう。
「別に責めているわけじゃないの。謝らないでちょうだい」
「は、はいっ……」
その時だった。
突然乱暴に職員室のドアが開かれたと思うと、どかどかと足音を立てて誰かが入って来た。
思わず私はドアの方へと視線を向ける。
「(先生が帰ってきたのかな……)」
だけど、予想に反してドアから挨拶もせずに入ってきたのは一人の男子生徒だった。
短い髪を茶髪に染めた不良みたいな生徒で、背が高く顔立ちのいい男子だった。

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