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あの人がいなくなって、何年の月日が流れただろうか。
私の部屋の本棚の上に置かれているあの人の写真は、あの頃と変わらず写っていた。何も変わらずに、風景でさえあの頃と同じように。
変わってしまったのは、激流のような日々を過ごしてきた私だけで。
何故だか、取り残されてしまったような感覚がした。

あの人は私を愛してくれて、不器用な私の精一杯の言葉を優しい笑顔で受け止めてくれた。
心を閉ざしていた私と、いつでも明るくて優しいあの人。
正反対の私たちは、どこか惹かれあっていたのだろう。どちらが告白するまでもなく、私たちは付き合い始めて。あの人と過ごした、夜空に一つだけ浮かんでいる一番星のような日々に、私は意味もなく浮かれていて。
あの人に甘えて過ごしていた。

だけど、あの人は死んでしまった。
私の悩みはたくさん聴いてくれていたくせに、自分の悩みなど一度も私には相談してくれなくて。一人で抱え込んで、あの人は一人孤独に死んで行った。
自らの喉元をナイフで突き刺して。
……私はただ、甘えていただけなのだ。
自分の話ばかりをして、自分勝手に振る舞って。
あの人の心の闇を、受け入れる器がなかったのだ。
あの頃の、弱い私に誰が悩みを打ち明けるのだというのだろう。
心は脆弱で、甘えてばかりの私にあの人はひっそりと暗闇を隠して。
幸せそうに笑っていた私の陰では、あの人は辛そうに泣いていたのだ。

ああ、なんであの時に気付けなかったのだろう。
私の甘えが、どれだけあの人を傷つけていたのだろう。
……今更後悔しても、遅い事はわかっている。
後悔したって、あの人は生き返らないのだ。
だから、私はあの人の最後の言葉を胸に抱えて生きて行くしかないのだ。
あの人が死ぬ直前に、私の携帯に送られてきた一通のメール。

『前を見て。
そして、笑って。
強く、生きて』


死ぬ、直前まで私の事を思っていてくれたあの人の事を思い返すと今でも胸が痛む。
時々、泣いてしまう。
だけど、私は生きていくしかないのだ。
流れるような、早い時間を越してきた私は、昔よりは強くなれたと思う。
あの人の、横に立てるくらいは。

強く、生きる事はまだ無理かもしれない。
あなた、という存在が私の心の空洞に存在し続ける限り。
でも私は、あなたを忘れる事はできない。

私があなたを思い続けている限り。
私が、笑って幸せに生きていくために。

私はあなたを、忘れる事などできないのだ。

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作品良かったです

こんにちは。
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よろしかったらホームページだけでもご覧になって下さい。
ホームページから最新号をご請求出来ます。
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  • つねさん
  • URL
  • 2011/12/10(Sat)15:25:52
  • 編集

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