空の翡翠

 
■死にかけ
 「生きていたい……たったそれだけの願いも、もう、叶いそうじゃないわね……。ぐっ……そろそろ血もたくさん流れて、もう、駄目、ね。助からない……助からない、のよ、もう。でも、生きて、いたいのよ。……まだまだ、あなたと一緒に過ごしていたい。アイツ等と、馬鹿やっていたかった。……だけど、この傷じゃあ、無理だね。……ありがとう。……あ、ありがとうっ！」

■神々しい
「悲しい宿命（さだめ）に生まれた子よ。
嘆き悲しむな。
お前はまだ暗闇しか知らぬのだ。
足元しか見ないお前にどうして光が見えようというのか。
顔を上げよ。空を見つめよ。
暗闇に甘えるな。暗闇に打ち勝て。
晴れた心で見上げる空はとても美しいことだろう。
濁った瞳で花を見つめるな。
可憐なる椿の花ですら、まるで戦に負けた落ち武者のように見えるではないか。
優しい瞳で見つめよ。
どんなに醜い世界でも、まるで西洋絵画に描かれる女神のように美しく見えるのだ。
悲しき宿命は変えられん。
だが抗うことはできるのだ。
神から与えられた宿命に抗い、立ち向かうその姿こそが、人間の最も美しい姿なのだ」

■勧誘電話
 「はいはい、もしもし？ えーとどなたですか？ ええ、ええ。ビタミン剤？ あーうちは勧誘電話は基本、断っているんですよ。申し訳ないですが……。ええ、すみません。ではでは。……ふぅ、勧誘は鬱陶しいねぇ。というか、うちの番号ってどこで知ったんだろ？ 不思議だー」

■嫌な女
 「あっはははは！ 最初からぜーぶ嘘なのよ。ワタシはアンタを騙していただけなの。アンタの事なんて、これっぽっちも好きじゃないし愛してもいないわ。それなのに、アンタっていう人は……。ワタシが甘い言葉を囁けばコロっと騙されちゃって。本当に、馬鹿な人。アンタの価値なんて、ただ金を持っているってだけじゃない。格好のカモだったわ。バイバイ、そしてありがとう」

■憂鬱な少女
 「未来に希望が見えないんだよね。私はたくさんの本を読んできたけど、そこにあるのは虚実の希望だけでさ。本の世界と現実の世界を見比べてみると、凄い落差があって絶望させられる。みんなは未来に希望を賭けているけどさ、本当に未来に希望なんかあるの？ 私が思うに、あるのは今と同じ……何も変わらない世界だけだと思うよ」

[0回]