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タイトル未定1


  目元に溢れる涙を堪えるのに、私は相当の労力を要した。今でも涙は隙あらば流れてきそうだ。昨日の夜に散々泣いて、頬が腫れて痛い。今日学校が休みで本当によかった。
 明日はまた学校が始まるが、学校には行きたくない。今日も夜になれば涙を堪えることなどできそうにないし、もう聞きたくない。
 ――由佳が自殺した。
 明日になれば、朝の朝礼で全校生徒に知れ渡るだろう。
 きっと、教室の由佳の机の上には花が飾られるのだ。見たいはずがない。
 つい最近まではクラスメートたちに活発な笑顔を向けていた由佳が、教室にいない。死人として扱われる。
 
「どうしてよ……」

 理解ができずに私はぼーっと部屋の時計を眺めている。時計の針は午前の十一時を指していて、かれこれ五時間はそうしていたことになる。朝起きてからずっと時計だけを眺めていた。着替える気力などなく、ベットから起きる気もない。腕を動かすのも足を動かすのも、顔の表情すら動かすのもダルい。
 親は私を気遣ってくれてわざわざ起こしに来ないし、いつもはうるさい弟も珍しく私に気を遣っているらしい。今ばかりは家族に感謝の言葉に尽きる。こんなみっともない顔を見せたくない。

「由佳……」

 彼女の名前を呼ぶだけで、一粒の涙が頬を伝う。口に涙が侵入してきて、少しすっぱい。
 私の胸の中には、様々な記憶が走馬灯のように蘇る。記憶の中には全て由佳の顔が映っている。……すべて笑顔で。
 小学生の時に虐められて、家族と相談した結果私立中学に通うことになった。無駄に頭だけは良い私だ、合格は簡単だった。だが逃げるように入学して来た私は、当然友達なんてできなかった。性格は暗いし要領も悪い私は、いつ虐めの対象にされるかビクビクして一年間を過ごした。
 二年生になって、周りは個性を主張する子やオシャレをする子、みんなはどんどん変わっていった。私は変化できないままで、みんなから置いて行かれたような錯覚を覚えていた。
 ――私みたいな暗い奴、誰も相手にしてくれない。
 絶望にも近い感情。
 それを打ち砕いてくれたのが……由佳だった。
 由佳は新学期、私の後ろの席に座っていた。最初に会話を切り出したのが由佳だ。会話に慣れていない私は上手く言葉を紡ぐことができず、俯いてしまった。普通なら暗い子だな、と思われて相手にもされないのに由佳は違った。由佳だけは違った。
 私の長い前髪を掻き分けて、にっこりとほほ笑んだ。

『なんだ、可愛いじゃん』

 それから私の由佳の関係は始まった。私と由佳は性格も得意なことや苦手なことも違ったけど、一番の親友へとなった。由佳は勉強は苦手だけど、スポーツがとても上手い。日々部活に励んで、目標はテニスの全国大会出場だといつも意気込んでいた姿が輝いている。
暇な時に私たちは色々な所へ遊びに行った。近い所はコンビニや図書館、カラオケ、遠い所では二人旅を計画して鎌倉へ行った。由佳のお祖母ちゃんの家に泊めてもらって、大仏やお寺、美術館などを二人だけで巡ったのは中学生の私たちにとっては新鮮で、とても面白かった。
 中高一貫だから受験勉強に慌てる必要はなかったけれども、由佳が私に勉強を教えてくれと中三の夏休みは二人で図書館で勉強会を開いた。必死に頭を悩ませる由佳が可笑しかった。
 由佳と一緒に過ごすうちに私はいつの間にかクラスとも溶け込められて、由佳以外の友達もたくさんできた。
 全てが変わった。
 由佳のおかげで。
 ――なのに、何故?
 由佳が何か悩んでいたり、可笑しかったりはまったくなかった。私がちゃんと見ていなかったのだろうか?
 今でも信じられない。
 あんなに明るく、クラスの人気者だった由佳。
 悩みがあるのなら、私に相談してくれればいいのに。私じゃ頼りなかったのかな? それとも私なんて、親友じゃなかった……?
 考えれば考えるほど、胸が痛くなり呼吸が荒くなる。

「由佳ぁ……」

熱い涙がまた、一粒頬を伝った。ボロボロと、濁流のように流れていく。
――また、泣いてしまった。
 一度涙を流せば、止めることは難しい。……また、ずっと流し続けるんだ。明日は学校には行けないだろうなぁ。
 
「うっ、う……」

 泣いたとしても、死人は答えてくれない。
 涙というのは無意味なものだと私は思う。ただ由佳の顔を思い出すだけで、胸を苦しめるだけのもの。
 解決はきっと、涙以外のなにか。今の私にはわからないけれども、きっと解決するんだ……。記憶が霞んでいくのと同じで。

 由佳のことを、忘れる。
 きっと、近い未来に。

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